
1996年夏、学校の夏休みを利用して1ヶ月半ほど旅行をした。
その旅行中にタイのタオ島へ行った。
特にその島に行きたかったわけじゃなかった。
ただその下にあるパンガン島やサムイ島より
ツーリスティックじゃないと聞いたし、(10年近く前の話)
何よりも小さいというのが気に入ったから。
泊まった宿は島の中心から歩いて40分近くかかる、
島の端の端にあった。
30代の若い夫婦が経営していて、2人には小学生の女の子がいた。
バンガローが8棟くらいと、宿には小さな食堂があるだけ。
買い物に行くのも郵便を出すのも遠くて億劫だった。
10日間ほどの滞在中、
本を読んで、海を見て、泳いで、とのんびり過ごしていた。
小さな島のバンガローは、どこもそうかも知れないが、
宿の人とも泊まっている人とも、
毎日一緒にご飯を食べて、夜は酒を飲むので、自然と仲良くなる。
ある日、宿の女の子がバンガローに起こしにきた。
その時、コンパクトカメラで何気なく撮ったこの写真は、
僕にとって今までにはない印象深い1枚になった。
柔らかくて、でも戸惑っているような、恥ずかしがっているような表情。
そして強い陽射し、遠くに見える青い海・・。
ありのままとは言えないまでも、
そこで出会った彼女をとても強く思い出させてくれた。
この写真を日本に帰ってきてから見たときに、
人の写真をもっと撮ってみたいと思うようになった。
知らない国の町を歩きまわり、人と出会い、写真を撮らせてもらう、
という旅のかたちがこの写真からできたような気がする。